福島第一原子力発電所における処理水の放出
(ALPS: Advanced Liquid Processing System、多核種除去設備)
よくある質問
福島第一原子力発電所に貯蔵されている水は、どこからきているのでしょうか?
2011年3月の事故以来、福島第一原子力発電所では、溶融した燃料や燃料デブリを継続的に冷却するために水が必要とされています。そのためにポンプで汲み上げた水のほか、周辺環境から敷地内に地下水がしみ込んだり、損傷した原子炉建屋やタービン建屋に雨水が降り注いだりしています。これらの水が、溶融した燃料や燃料デブリ、その他の放射性物質に接触すると、汚染水になります。
これらの汚染された水は、貯蔵される前に、多核種除去設備(ALPS)と呼ばれるフィルター処理によって、ほとんどの放射性物質が除去されます。
多核種除去設備(ALPS)とは何ですか?
トリチウムとは何ですか?
トリチウム(Tritium)は、自然界に存在する放射性の水素で、宇宙線と空気中の分子が衝突したときに生成されます。トリチウムは、海水中に存在する天然の放射性核種の中では最も放射線の影響が小さい核種です。また、トリチウムは、電気をつくるために原子力発電所を稼働させる時の副産物でもあります。
トリチウムの放射性半減期は、12.32年です。これは、任意の量のトリチウムが、12.32年後には、放射壊変によって半分しか残らないことを意味します。
トリチウム水(Tritiated water)の人体における生物学的半減期は、7〜14日と比較的短いものです。化学物質(薬物など)の生物学的半減期とは、その化学物質の半数が、生体内から消失したり排出されたりするまでの期間を表します。
トリチウムは、平均エネルギー5.7keV(キロ電子ボルト)の弱いベータ粒子、すなわち電子を放出します。ベータ粒子は、空気中を約6.0mm透過しますが、人間の皮膚を通過して体内に侵入することはありません。これを吸入・摂取すると放射線障害を起こす可能性はありますが、人体に有害となるのは、それが非常に大きな線量である場合のみです。
なぜ処理中にトリチウムが除去されないのですか?
水からトリチウム水を除去することは、技術的に非常に困難です。トリチウムは水素の同位体であり、トリチウムを含む水は、通常の水素を含む水とほとんど同じ化学的特徴を持っています。
例えば核融合施設などにおいて、少量の水に高い濃度で含まれるトリチウムを回収する技術は存在します。しかし、福島第一原子力発電所の貯蔵水は、大量の水の中に低い濃度でトリチウムが含まれているため、既存の技術を適用することはできません。
福島第一原子力発電所では、トリチウムを含むALPS処理水は、どのように管理されるのですか?
現在、福島第一原子力発電所で発生した汚染水は、処理され、敷地内に特別に用意されたタンクに貯蔵されています。同発電所を運営する東京電力は、福島第一原子力発電所の敷地内に約1000基のタンクを設置し、約130万立方メートルの処理水を貯蔵しています (2022年6月2日現在)。2011年以降、貯蔵された水の量は着実に増加しており、処理水を貯蔵するために利用可能なタンクの設置場所は、現在満杯に近い状態となっています。
汚染水の発生速度を大幅に低減するための改善が行われていますが、東京電力は、廃炉を確実に進めるために長期的な処分方法が必要であると判断しました。2021年4月に、日本政府は「基本方針」を発表し、ALPS処理水の処分の方向性として、国内の規制当局の認可を前提に、約2年後に管理された海洋放出を開始するものとしました。
他の施設もトリチウム水を放出しているのですか?
世界中のほとんどの原子力発電所では、通常の運転の一環として、低レベルの濃度のトリチウム及び他の放射性物質を含む処理水を、日常的かつ安全に環境中へ放出しています。
原子力発電所では、炉心から蒸気タービンに熱を伝えるため、また余熱を抑えるために開発された冷却システムで水が使用されています。原子力発電所における水の必要量は、使用する冷却システム、原子力発電所の熱効率、所内用水の必要量、安全機能、廃棄物処理技術によって異なります。
原子力発電所では、トリチウム水を河川、湖沼、沿岸域などの近隣水域に放出することが許可され、管理されているのが通例です。原子力発電所における水の放出は認可されたものであり、安全を確保するために事業者と規制当局によって厳密にモニタリングされます。IAEAの安全基準には、環境中への放出の認可に関するガイダンスが含まれています。
IAEAは、具体的にどのように処理水の放出に関するレビューやモニタリングを行うのですか?
日本は、ALPS処理水の取扱いに関する安全面のレビューをIAEAに要請しました。IAEAが設置したタスクフォースは、日本政府及び東京電力の放出計画及び関連活動をIAEA安全基準 に照らしてレビューするとともに、日本政府及び東京電力から公表されたデータの裏付けを行うためにALPS処理水及び環境中の放射性物質のモニタリングを独立した立場で実施する予定です。その目的は、処理水の処分がIAEA安全基準を遵守し、人の健康や環境に悪影響を及ぼすことなく実施されることを確保することです。このレビューは、一般公衆からの信頼を構築することにもつながります。
レビューのさまざまな技術的要素には、東京電力の実施計画、放射線環境影響評価及びその他安全に関連する文書の分析、提案されているALPS処理水の放出に関連する規制活動及びプロセス(放出に向けた認可や検査など)の評価、福島第一原子力発電所でのレビューミッションの実施による事実情報の収集、疑問点の解消及びALPSの工程に関する活動の監視、既存のデータの裏付けを行うための試料採取(サンプリング)及び分析の実施等が含まれます。
これらの活動は2021年に開始され、処理水の放出前・放出中・放出後にわたり支援を行うというIAEA事務局長の約束に沿って、長年にわたり継続します。IAEAのレビューの大部分は、日本の規制当局による認可を得た上で2023年(予定)に計画されている放出の前に完了する予定です。他方、継続的なモニタリングと定期的なレビューの活動は、その後も継続する予定です。
IAEAのレビューを完全に透明かつ包括的な形で実施するために、ラファエル・マリアノ・グロッシー事務局長は、タスクフォースを設置しました。
タスクフォースには誰が参加していますか?
タスクフォースは、IAEA事務局の権限のもと設立され、IAEAの幹部職員が議長を務めます。タスクフォースに参加するIAEA職員は、IAEAのレビューを完了するために必要な技術的および規制的専門知識の主要な情報源としての役割を果たします。
タスクフォースには、幅広い技術的分野で豊富な専門的知見を有する国際的に評価されている専門家として、アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、中国、フランス、マーシャル諸島、韓国、ロシア連邦、英国、米国及びベトナムからの専門家11名も参加しています。IAEAのレビューが包括的であり、最も優れた国際的な専門知識を享受し、また多様な技術的視点を備えることを確保するために、これらの専門家は、個々の専門家個人の資格でこのレビューを支援するタスクフォースの一員として活動します。
タスクフォースはどのような技術的側面に焦点を当てるのですか?
ALPS処理水の放出に関するIAEAのレビューは、特に日本の放出計画の安全面に焦点を当てて実施されます。この作業には、以下のレビュー活動が含まれます。
- 放出されるALPS処理水の放射線科学的な特性評価
- 使用される機器及び適用・遵守されるべき基準を含め、ALPS処理水放出プロセスの安全に関する側面
- 人と環境を守るための放射線環境影響評価
- 放出に伴う環境モニタリング
- 放出計画の認可、検査及び継続的な評価を含む規制面の管理
さらに、IAEA は、日本政府及び東京電力が公表したデータの裏付けを行うために、ALPS処理水及び環境中の放射性物質のモニタリングを独立した立場で実施する予定です。この作業は、IAEA及び第三者の研究所が共同で行います。
タスクフォースは、IAEA安全基準に合致した透明性のある方法で、客観的な技術レビューを実施します。
IAEAはタスクフォースの調査結果をどのように報告するのですか?
IAEAのレビューは数年にわたって実施され、その進捗は、プロジェクトの状況や関係者に応じて、様々な方法で報告されます。
関連するレビューミッションの報告書は、タスクフォースの関連する調査結果を文書化するために使用され、それぞれのレビューミッションの約8週間後に発表されます。これらの報告書は、IAEAのウェブサイトにおいて一般公開されます。日本の規制当局による認可を得た上で2023 年(予定)に開始されるALPS 処理水の放出に先立ち、IAEAは、レビューのすべての側面に関するタスクフォースの結論を含む、包括的な報告書を発表する予定です。
さらに、IAEAは、重要な情報をタイムリーに発信するために、プレゼンテーションやブリーフィングを通じて、一般公衆や加盟国政府と臨機応変にコミュニケーションを取る予定です。
この一連の質問と回答は、IAEAレビューの継続に伴って更新される予定です。
IAEAレビューの結果は、日本の当局に対して法的な拘束力を持つものですか?
IAEAレビューの結果とその結論は、日本政府を法的に拘束するものではありません。ただし、国際社会に対して情報を提供し、透明性を高めるという全体的な目標を支援する上で、有用なものになると思われます。IAEAレビューは、IAEA安全基準を用いて行われ、同基準に照らして福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の取扱いに関する日本政府の基本方針の実施状況を評価します。IAEA安全基準は、IAEAの全ての加盟国との協議により策定されたもので、電離放射線の有害な影響から人々や環境を守るための高いレベルの安全性についての国際的なコンセンサスを反映しています。
一般に、IAEA安全基準は加盟国に対して法的な拘束力を持ちませんが、加盟国は国内における規制の参考として自主的に広く利用しています。日本政府は、ALPS処理水の取扱いに係る安全性や、この目的を達成するために必要と考えられるあらゆる決定と行動について、引き続き全責任を負います。
IAEAは既にレビューを開始していますか?
ALPS処理水の放出計画に関する複数年のレビューを正式に開始し、全般的な行動計画に合意するために、2021年9月にIAEA職員が日本を訪れました。その後、レビューを進展させるために複数回の日本での現地訪問や、タスクフォース会議を行っています。IAEAは、2022年以降も活動を実施する予定です。IAEA事務局長が指摘したように、IAEAレビューは、放出前・放出中・放出後にわたって継続されます。
IAEAは地域の他の国との調整も行っているのでしょうか?
プロジェクトの進展に伴い、IAEAは一般公衆や加盟国政府にその進捗を知らせるため、プロジェクトの実施期間中は定期的に報告を行っていくこととしています。透明性はこのレビューの重要な要素であり、IAEAはあらゆる機会を利用して、レビューの状況と主要な結論を、関係者に伝えてまいります。